島根の離島・海士町にはやっぱり行かない方がいいのかもしれない
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記事:Yushi Akimoto(ライティング・ゼミ)
島根県には、実は有人の離島がある。松江の遥か北、日本海に浮かぶ隠岐諸島がそれだ。その隠岐諸島に位置する海士町(あまちょう)に、僕は5年半ほど住んでいた。そんな僕が言うのもなんだが、この島を訪れるのはあまりオススメしない。きっと、期待を裏切られてしまうからだ。圧倒的に。
もちろん、僕にはみなさんの自由意志を妨害する権利なんて持っていない。行くなと言われると、かえって気になってしまうものかもしれない。実際、あの島を訪れる人は後を絶たない。だから、なるべく、海士町に行かない方がいい理由を列挙しておく。あとは賢明なるみなさんの判断に委ねることにしたい。
・行かない方がいい理由その1:辺鄙なところだから。
第一の理由は、とてもシンプルだ。海士町はとても辺鄙なところにある。だから、自然が手つかずのまま残っている。夏は岸壁から海の底までくっきりと見えるくらいに海が澄んでいる。海水浴シーズンに海に入ると、生き物がうじゃうじゃいる。それくらい、田舎なのだ。信号は一つしかない。ネオンサインもない。夜は真っ暗だ。星空がくっきり見えてしまうくらいに。ペルセウス流星群のタイミングで来島するのは本当にお勧めしない。天体観測の辞め時がわからず、たくさんの流れ星と引き換えにきっと首が痛くなってしまうからだ。
さらに、離島だから、嫌というほど海鮮が取れる。島に移住した人がひと夏でサザエに飽きてしまうような恐ろしいところだ。イカの季節には冷凍庫がぱんぱんになるから油断ならない。海産物だけではない。米どころ・秋田出身である僕も文句のつけようがないコシヒカリを育む、豊かな湧き水もある。野菜もたいてい各家庭で自家栽培されている。海岸沿いでは、幻の黒毛和牛が潮風を浴びながらのんびりすくすく育っている。もちろん、島内で食べられる、お手頃価格で。一説によれば、移住後、体重計が突きつける事実にショックを受けない移住者はいない、と言う。
地理的にも不便な立地だ。本土からフェリーで片道3時間近くかかる。日帰りなんてほとんど不可能だ。なるべく2泊3日は欲しい。その上、台風や低気圧の影響により海が時化るとフェリーが欠航する。文字通りの孤島になる。後述するが、こんな辺鄙なところなのに、移住希望者が続々と集まっているのだから、不思議なものだ。
・行かない方がいい理由その2:何もないから。
海士町には。チェーン店と呼べるものがない。映画館もボウリング場もない。コンビニさえもない。この島にはないものばかりだ。ひどい言いようかもしれないが、なにも僕が言い出したことじゃない。海士町の玄関口「菱浦港」に到着すると、「ないものはない」とでっかく書かれたポスターがずらりと通路に並び、来客を出迎える。開き直っているのだ、この島は。
あるのは個人の商店や飲食店のみ。チェーン店がないから、島民は自分たちで何でも揃えてしまうしかない。おしゃれなイタリアンカフェも個人経営だ。スタバなんて贅沢なものはない。新鮮な魚介を楽しめる寿司屋で締めにラーメンを食べることができるのも、島ならではの致し方ない事情を反映している。娯楽施設はないから、日々の楽しみは自分たちで生み出さざるを得ない。だから毎週のように催し物がある。楽しみがありすぎて忙しいのがこの島だ。
ああ、そうそう。ないものばかりのくせに、スナックはやたらとある。この島の人たちはお酒を飲むのが大好きなのだ。地酒を飲み、聞き取りづらい隠岐弁で盛り上がり、しまいにはカラオケを唄い出す(しかもみんな上手い)。酔っぱらえばみんな友達。客人をもてなし尽くす技がある。この島では、昼間の会議や意見交換は練習で、夜の懇親会こそが本番なのだ。
・行かない方がいい理由その3:人さらいの島だから。
この島には世界遺産があるわけではない。全国的に有名な観光スポットがあるわけでもない。なにせ、観光資源は「ヒト」なのだから。ひどい話だが、これも言い出しっぺは島唯一の高校・隠岐島前(どうぜん)高校の生徒たちであり、僕ではない。そもそもこの島の高校生たちの半分が、全国から集まってきている。高校生だけではない。島の人口の1割が、縁もゆかりもない移住者で構成されている。毎年、移住を希望する若者が続々集まるのがこの島だ。
外から人を引き寄せる魅力とは何か。それが、まさに「ヒト」だ。ノープランで来島した神奈川の短大に通う女の子が、道端で出会った地元の人たちと話しているうち、気づいたら晩御飯を御馳走してもらうことになっていたり、島に移り住んだ古くからの友人を訪ねてふらりと遊びに来た男性が、島に住む人たちの熱意と志にやられて気づいたら3か月後には移住していたり。数週間滞在しただけでリピーターになる大学生も少なくない。彼・彼女らは、人に会いに来るのだ。
海士町は、別名「人さらいの島」と呼ばれている。これが、僕が来島をオススメしない最大の理由だ。油断していると、いつの間にか心を掴まれて、日本海を越える決意をしてしまう。さらには、ミイラ取りがミイラになるかの如く、移住者が次の移住者を唆す。今のところ、連続誘拐事件が解決する見込みはなさそうだ。人さらいの被害者でありながら気づけば加害者側に回っていた僕が言うのだから、間違いない。
・傾向と対策
以上の危険性を踏まえると、この島に近づかないことが最大の対策であるのは間違いない。しかし、もし来島せざるを得ないなら、海士町で出会う人たちとなるべく接触をしないことをオススメする。無難にガイドブック通りに観光地を回る程度に留めておいたほうがよい。間違っても住人に話しかけてオススメのスポットや食事を聞くなんて真似をしてはいけない。見返りもないのに車に乗せてもらったなんて事例は枚挙に暇がない。宿泊先を予約せずに来島した男性が、とある飲食店で「宿泊先、どこか安く泊まれないですかねえ」とお店の人に相談したら、その場で電話して予約を取り付けてくれた、なんて話まである。悪天候に見舞われフェリーが欠航し、一日帰りが遅くなったことを、内心「もう1日島を楽しめるなんてラッキー」と思う人まで出てくる始末だ。
ここまで、海士町に行くべきでない理由をできるだけ具体的に記述してきた。個人的にはまだまだ書き足りないくらいだ。一つだけご注意いただきたいのが、必ずしも上記の通りになるかは保証できない、という点だ。怖いもの見たさに海士町を訪れたのに、ここに書いてあるようなことは何一つ起こらないなんてことも、もちろんあり得る。島の人たちにも当然自分たちの暮らしがあるのだから、そこはどうかご配慮いただけると有難い。
ここまで読んでなお、海士町を訪れたいというのであれば、もはやそれを止めるつもりはない。きっと島で数日過ごした後に「海士町、本当に楽しいですねえ!」「まだ帰りたくないなあ」「また来たい!」等とついつい口走ってしまうことだろう。どうかそれは独り言で留めておいていただけたらと思う。それを島の人が聞きつけたなら、満面の笑みで、こう言ってくるだろう。「そうか!それなら海士町に住めばいいじゃないか!」「仕事はこっちで探してあげるよ。どんな仕事がいいのか?」そして、その言葉に心揺さぶられる自分に気が付くことだろう。
そのときには、もう、海士町はあなたの心のふるさとになっているかもしれない。
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